体内の血液系統の中枢器官ともいうべき心臓の大きさは、ほぼ握りこぶし大である。これに対して血管の総延長は、約十万キロといわれている。赤道の全周がほぼ四万キロだから、単純に地球の二倍半の長さの血管が人体に張りめぐっていることになる。それだけの血管に、心臓一つの働きで、血液を流しきれるだろうか。
心臓から動脈を通じて下半身に血液を送り出す場合はまだよい。基本的には下に降りてくるだけだからだ。だが静脈を通じて心臓に戻ってくる場合はどうだろうか……。
静脈を血液が上がってくるときは、太い方へ太い方へ押し上げてくる。血管全体が弁のようになって、逆流を防止しながら押し上げているのである。
つまり人間の身体は、全身が助けあって血液の流れをつくっているともいえる。
したがって病気というものは、全身の血行をよくしなければ治っていかないのである。
たとえば、膝に水が溜る。このとき膝だけに治療器をかけるより、全身の血行をよくして、さらに患部にかけてやると、はるかに早く治るのである。
それが最もよくわかるのが、心臓疾患である。普通は心臓の血行をよくすればいいだろうと考えがちだが、それでは駄目。
心臓を助けているのはくりかえすが全身だ。
全身の血行をよくしていかなければ、不整脈や心不全、心筋梗塞などの心臓病はよくならない。現代医学では残念ながらこの全身治療ができないのである。
現代医学は、あまりに細分化され、人間の全身を総合的に見て判断することができなくなっている。
眼は眼科。耳は耳鼻科。脳にしても脳神経科あり脳外科ありで、医師がすべて専門化されている。心臓、肝臓、腎臓、胃腸等についても、事情はすべて同じだ。
たとえば自動車なら、悪い部品を取りかえれば済むことだ。
しかし、人間の身体は全身の血管がつながって一緒になって、同じ血液が流れている。
したがってどこかの流れが悪くなって、そこだけ治療しても効果が上がらない。